浦和地方裁判所 平成7年(行ウ)19号 判決 1997年2月17日
原告
佐々木新一
右訴訟代理人弁護士
中山福二
同
池本誠司
同
新穂正俊
同
花谷克也
同
牧野丘
同
野本夏生
同
照屋兼一
同
青木孝明
同
柳重雄
同
奥村一彦
同
山越悟
同
石河秀夫
同
南雲芳夫
同
城口順二
同
深田正人
同
難波幸一
被告
埼玉県総務部公文書センター所長
藤井稔
右訴訟代理人弁護士
飯塚肇
右指定代理人
尾花仁
外四名
主文
一 被告が、原告に対し、平成六年六月八日付けでした、別紙目録一記載の文書に記載された行政情報の一部非公開決定処分のうち、1懇談の相手方、2債権者・店の住所、名称、郵便番号、電話番号及びファックス番号、3振込先の郵便番号、4連絡先、5債権者コード番号、6姉妹店の名称及び電話番号、7契約者の名称及び住所、8納入場所を非公開とした部分を取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを四分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告が、原告に対し、平成六年六月八日付けでした別紙目録一記載の文書に記載された行政情報の一部非公開決定処分を取り消す。
第二 事案の概要
一 本件は、原告が埼玉県行政情報公開条例(以下、「本件条例」という。)に基づき、埼玉県(以下、「県」という。)の食糧費に関する情報の公開を請求したところ、被告が一部につき非公開処分をしたため、原告がその取消しを請求した事案である。
本件条例六条一項には、実施機関が公開しないことができる行政情報が定められているところ、その一号、二号及び五号の規定は、左記のとおりである。
一号 個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げるものを除く。
イ 法令又は条例(以下「法令等」という。)の規定により、何人でも閲覧することができる情報
ロ 公表することを目的として作成し、又は入手した情報
ハ 法令等の規定に基づく許可、免許、届出等の際に作成し、又は入手した情報で、公開することが公益上必要であると認められるもの
二号 法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人に関する情報で明らかに当該事業に専属すると認められる情報であって、公開することにより当該法人等に著しい不利益を与えることが明らかであるもの(人の生命、身体又は財産の安全を守るため公開することが必要であると認められる情報を除く。)
五号 その他公開することにより行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生ずることが明らかである情報
二 争いのない事実
1 当事者
(一) 原告は埼玉県内に住所を有する者である。
(二) 被告は、埼玉県本庁事務の委任及び決裁に関する規則(昭和四五年埼玉県規則第一号)に基づき、埼玉県知事から本件条例の施行に関する事務の委任を受けた行政庁である。
2 情報公開の請求
原告は、被告に対し、平成七年四月二五日、本件条例五条一項に基づき、請求する行政情報欄に左記のとおり記載して、行政情報の公開を請求した。
平成五年度(平成五年四月一日から平成六年三月三一日までに決済された)の秘書課、財政課、東京事務所にかかる食糧費支出にかかわる文書、支出負担行為兼支出命令書(添付書類を含む)
3 一部非公開決定処分
被告は、原告に対し、右公開請求の趣旨は、平成五年度予算から秘書課、財政課、東京事務所が支出した食糧費にかかわる文書の公開を求めるものであることを確認の上、平成七年六月八日、右請求に対し、支出負担行為兼支出命令書(伺い)(添付書類を含む)合計九二六件にかかる行政情報について、一部非公開決定処分をした。
4(一) 右処分が記載された行政情報部分開示決定通知書には、右処分について不服がある場合は、右処分があったことを知った日の翌日から起算して六〇日以内に、埼玉県知事に対して審査請求をすることができる旨の教示があった。
そこで、原告は、右教示に従い、一人当たりの支出金額が五万円を超える懇談会についての行政情報である、別紙目録一記載の一九件の文書(以下、「本件文書」という。)にかかる行政情報を非公開とした処分(以下、被告の本件文書に記載された行政情報の一部を非公開とした処分を「本件処分」といい、本件処分において非公開とされた行政情報を「本件非公開情報」という。)について、平成七年八月二日、埼玉県知事に対し審査請求を行った。
(二) 右審査請求についての処分は、現在までなされていない。
5 本件非公開情報
本件非公開情報は別紙目録二記載のとおりであり、類型ごとに分類すると以下のとおりである。
(一) 支出負担行為兼支出命令書(伺い)及び支出負担行為兼支出命令書の「摘要(支出目的等)」欄のうち、懇談の相手方
(二) 支出負担行為兼支出命令書(伺い)、支出負担行為兼支出命令書、口座振替支払内訳書(控)、口座振替支払内訳書、請求書及び請書のうち、
① 債権者・店の住所、名称、郵便番号、電話番号、ファックス番号及び印影
② 振込先、振込先の郵便番号
③ 連絡先
④ 債権者コード番号
⑤ 債権者・店の代表者の印影
⑥ 姉妹店の名称及び電話番号
⑦ 契約者の名称、住所及び印影並びに代表者の印影
⑧ 納入場所
(以下、①ないし⑧を合わせて「債権者名等」という。)
(三) 支出負担行為兼支出命令書(伺い)、支出負担行為兼支出命令書、口座振替支払内訳書(控)、口座振替支払内訳書及び請求書のうち、振込先銀行名、預金種目及び口座番号(以下、これらをあわせて「振込先銀行名等」という。)
(四) 請求書のうち、取扱者名
右取扱者名は、債権者の従業員名が記載されている。
三 争点
本件非公開情報が、本件条例六条一項一号本文、二号本文又は五号に該当するかどうかである。
1 被告の主張
本件非公開情報のうち、懇談の相手方は本件条例六条一項五号に、債権者名等及び振込先銀行名等は同項二号に、取扱者名は同項一号にそれぞれ該当する。その理由は、以下のとおりである。
(一) 懇談の相手方
(1) 本件条例六条一項五号の趣旨
行政は、公正かつ円滑に執行されなければならないものであり、その執行が確保されない場合には、県民全体の利益の保護に支障を生ずることになる。このため、本件条例六条一項五号は、非公開を条件として任意に提供された情報や人事行政に関する情報等であって、公開することにより行政の公正かつ円滑な執行に支障を生ずることが明らかであるものは公開しないことができるとしたものである。
(2) 行政情報の内容
本件非公開情報のうち、懇談の相手方として記載されているのは、中央省庁名又は相手側の職種による種別である。なお、個人名の記載はない。
(3) 本件条例六条一項五号該当性
① 懇談会の開催目的
ア 中央省庁の職員について
埼玉県が行財政を円滑に進めていくためには、国、特に中央省庁との連絡調整を十分に行い、県の実情に対する理解を得、必要なときには協力を依頼できるような関係を作っておくことが実際問題として必要不可欠である。日頃から多忙である中央省庁の職員等に対し、このような関係を形成していくためには、人数も多く、時間的な制約があり、目的も限られた公式の会議や打合わせの場だけでは不十分であって、時間的に余裕のある時間帯に、比較的少数の関係者を招き、これらの者と直接膝をまじえ、きたんなく情報や意見交換をなし得る場を設けることが必要となる。
県は、このような実情から、中央省庁の職員との間で、昼食や夕食を兼ねて懇談や打合わせを行っている。
イ 学識経験者等について
今日のように価値観や行政ニーズが多様化した社会においては、地方公共団体においても、専門的知識を有し、見識に優れた学識経験者等から意見を聴取するとともに、日頃から意思疎通を図り、必要なときに協力を依頼できるような関係を作っていく必要性が生じている。
県では、右目的のもとに学識経験者等との懇談会を開催している。
② 行政運営への支障
ア 東京事務所の開催する懇談会の目的及び必要性
県は諸機能の集中する東京に隣接し、その影響を強く受けながら発展してきており、都市化の進展や人口の増加が著しいことから、様々な問題への対応や生活基盤の整備等に多額の財政負担を余儀なくされている。しかし、県の自主財源は五割程度であり、中央省庁等の協力・理解を得なければ、行政上の課題に対処し、解決することができない。
そのため、県は、中央省庁に対し、補助金等の分配や制度の新設・改正に際して、右県特有の事情が十分反映されるように説明に努めてきており、また、重要課題に対処するための施策の立案、実施等に当たっても、より広い視野からの検討や、既存の国の諸制度との整合性を確保する等のため、積極的に情報交換等を行ってきた。
東京事務所は、「国会及び中央官庁との連絡並びに情報の収集及び提供に関する事務」を所掌し、中央官庁等から情報を収集し、中央官庁等の理解・協力を得るため、県の情報を提供したり、事業についての折衝、要望等を行っている。
東京事務所は右目的を達成するために、具体的な事業についての折衝、要望、或いは特に具体的な事業に関せず広く中央官庁の理解・協力を得るための条件づくりとして、懇談会を開催している。
懇談会は、県が要請して中央省庁職員に出席してもらっているものであって、きたんのない意見の交換や情報交換ができるように、公開しないことを前提に開催している。
イ 財政課の開催する懇談会の目的及び必要性
財政課は、埼玉県の予算に関することその他県財政全般に関する事務を分掌している。
県は、前記のように財源確保が重要な課題であり、あらゆる機会を捉えて国等に対し、地方財政制度全般に関する要望や個別具体的な事業展開に当たっての理解・協力を求めている。一方、国等は地方行財政に関する相当量のノウハウを蓄積しており、全国の総ての地方公共団体も国等の動向を注視し、当面する行財政課題に対する様々な解決手法に関して情報の収集に努力を注いでいる。
財政課は、県の実情に対する理解を求め、また各種の助言をしてもらうべく懇談会を開催しているが、きたんのない意見交換や情報交換ができるよう、公開しないことを前提にしている。
県は、これまで国等と、懇談会等を通じ人的なネットワークを築いてきたものであり、このような関係を維持発展させていくことは県の行政にとって必要であるから、今後もそのために懇談会を開催することが必要である。
ウ 懇談の相手方を公開することによる行政運営の支障
右のような懇談会の目的を達成するために重要なことは、出席者がきたんなく情報や意見の交換をなし得る条件が確保されることである。もし、懇談会の出席者が明らかにされるとすれば、相手方において、懇談の内容についてさまざまな憶測をされることを危惧し、自由かつ率直な意見交換がなされなくなり、ひいては相手方との信頼関係が失われ、以後会合への参加が拒否されるおそれが生ずる。
また、懇談の相手方の地位等に応じて懇談会の場所、費用が異なることは、社会一般的な傾向としてあり得ることであり、懇談の相手方が公開された場合には、懇談に要した費用とその内訳が公開されていることから、相手方によっては、自己が出席した懇談会の場所やその費用を他者のそれと比較し、県政における自己の位置づけや評価を憶測・誤解し、県に対し不快感、不信感を抱くこともありえ、その場合には、相手方との間の信頼関係が損なわれるおそれがある。
このような場合には、懇談会を開催する目的が達せられなくなるだけでなく、以後の開催自体が困難となり、ひいては行財政運営に支障が生ずることとなる。
エ なお、秘書課分の文書については懇談の相手方の記載はない。
③ 以上のとおり、懇談の相手方は、これが公開された場合には行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生ずることが明らかであるから、本件条例六条一項五号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。
(二) 債権者名等及び振込先銀行名等の非公開決定処分について
(1) 本件条例六条一項二号の趣旨
法人等は、社会の構成員として事業活動の自由が認められており、法人等は、この事業活動によって、技術上のノウハウ、営業上の権利などの正当な利益や社会的な評価等を得ているとともに、社会への財やサービスの供給等を通して、社会全体の利益の向上に寄与している。このような法人等の事業活動は、社会の発展の上から保護されなければならないものである。
このため、本件条例六条一項二号は、法人等の適正な事業活動を保護し、法人等の営業、財産、金融、技術、労務管理等に係る情報であって、公開することにより当該法人等に著しい不利益を与えることが明らかであるものは、公開しないことができるとしたものである。
(2) 債権者名等の本件条例六条一項二号該当性
① 行政情報の内容
本件非公開情報のうち、債権者名等として記載されているのは、いずれも懇談の場所、サービスを提供した債権者(店)に関わるものであって、債権者名そのもの又はそれにより債権者を推知、特定できるものである。
② これらの行政情報は、当該取引にかかる請求書の内訳が公開されているため、公開されると当該債権者の取引内容(取扱品目、価額、単価、席料などの明細や入金状況)が具体的かつ詳細に明らかになる。そうすると、当該債権者の営業方針や価格設定など営業上の秘密やノウハウ、経理内容が第三者に知られるところとなり、当該債権者の競争上の地位その他の事実上の利益が著しく損なわれる。
③ したがって、債権者名等は、これが公開された場合には当該債権者に対し著しい不利益を与えることが明らかであるから、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。
(3) 振込先銀行名等の本件条例六条一項二号該当性
① 行政情報の内容
本件非公開情報のうち、振込先銀行名等として記載されているのは、債権者の取引先銀行や預金取引の種類、内容、さらには債権者の有する口座を特定して明らかにする情報である。
② これらの情報は、債権者の取引上の秘密に関する事項であって、事業活動を行う上で内部情報として厳重に管理しているもので、外部には知られたくない性質のものである。
③ したがって、振込先銀行名等を公開した場合には、債権者の取引上の秘密を明らかにすることとなって、債権者に著しい不利益を与えることが明らかであるから、振込先銀行名等は、本件条例六条一項二号に該当する。
(三) 取扱者について
(1) 本件条例六条一項一号の趣旨
情報公開制度を実施する上で、行政情報の公開を求める権利とプライバシーの保護との調和は、極めて重要な問題であるところ、プライバシーは、一度侵害されると、当該個人に回復し難い損害を及ぼすことになる。そこで、本件条例六条一項一号は、プライバシーの概念や範囲が不明確であることをも考慮して、個人のプライバシーを最大限に保護するため、個人に関する情報の内容のいかんを問わず、特定の個人が識別され、又は識別され得る限りにおいて、当該情報を原則として公開しないことができるものとしている。
(2) 本件条例六条一項一号該当性
前記のように、取扱者名には、県の職員ではなく債権者(店)の従業員名が記載されており、したがって、右行政情報は、一私人たる債権者の従業員の名前であるから、個人に関する情報の典型的なものであって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものである。
(3) よって、取扱者名は、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であるから、本件条例六条一項一号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。
(四) 原告の主張に対する反論
本件条例六条一項五号は、「公開することにより行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生ずることが明らかである情報」は公開しないことができると規定しており、当該行政情報にかかる行政活動が適正か否かということは問題としていない。
したがって、被告は、公開請求のあった当該行政情報の内容、性質自体から、一般的にそれを公開した場合には行政の公正かつ円滑な執行に対する著しい支障という結果が発生することが明らかであるか否かを判断すれば足り、当該行政情報にかかる行政活動の内容に立ち入り、それが実質的に適正か否かを判断する権能は付与されていない。
2 原告の反論
(一) 本件非公開情報は、要保護性を欠くものである。
(1) 食糧費による懇談会への支出の違法
食糧費は、地方自治体予算の節の一つである需用費の細節である。需用費は、地方公共団体の行政事務の執行に伴い必要とされる消費的な物品の取得及び修理等に要する経費等の外一般的にその効用が短期的に費消される経費をいい、食糧費は、行政事務、事業の執行上内部的、直接的に費消される経費として、外部折衝経費の交際費とは厳正に区別されるべきものである。そして、予算の支出項目は目的によって制限され、他の項目から無制限に流用することは許容されないから、外部接待である中央省庁の職員や学識経験者等との間の懇談会のために食糧費を支出すること自体が違法・不当である。
したがって、本件非公開情報は、保護されるべき行政情報とはいえない。
(2) 地方公共団体の事務遂行過程で行われた接待であっても、社交儀礼の範囲を逸脱するような接待は地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず、また、酒食等による接待行為それ自体は地方公共団体の事務に含まれるものではなく、許容されるものではない。
本件文書に記載されている懇談会は、いずれも酒食を伴う接待であり、さらに一人当たりの支出金額が五万円を超えるという高額なものであって、食糧費が本来の支出目的を著しく逸脱して無制限に接待交際に支出されたものである。
したがって、本件非公開情報は、保護されるべき行政情報ではない。
(3) 本件で、被告が公開を拒否する真の理由は、食糧費について、架空支出や請求書の書換えが行われていることを隠蔽するためである。
本件文書は、請求書添付の内訳書が被請求者である県職員によって改竄ないし書き換えられている可能性があり、そうであるとすれば違法であって、本件非公開情報は保護されるべき行政情報とはいえない。
(二) 本件非公開情報は、いずれも本件条例六条一項に該当しない。
(1) 本件条例の規範構造
① 本件条例一条は、極めて明確に県民に対して県の保管する行政情報の公開請求権を保障し、三条一項は、県が右権利が適正に保障されるように条例を解釈運用すべき責務を負っていることを明らかにし、さらに五条一項で行政情報の公開を請求できる者の範囲を具体的に規定している。その上で、本件条例六条一項において、同項各号列挙の事由に該当する場合は行政情報の公開をしないことができるとしていわゆる除外事由を定めているのであるから、これらの規定に鑑みれば、所定の者からの行政情報の公開請求があった場合は、実施機関は原則としてこれを公開しなければならず、非公開とするのはあくまで例外であるというべきである。
そして、原則例外の規範構造を有する法令を解釈する場合は、例外規定は厳格に解釈し、徒に例外規定の適用場面が広がることは厳に慎むべきである。そうでなければ、原則規定の趣旨が没却されるし、極端な場合は、原則と例外とが実質的に逆転することにもなりかねない。
本件条例においても、例外規定としての除外事由が厳格に解釈適用されなければならないという趣旨は、除外事由自体に、「著しい不利益を与えることが明らかであるもの」(二号)、「著しい支障を生じ、又は……著しく困難にすることが明らかであるもの」(三号)、「著しい支障を生じることが明らかである情報」(五号)というように、「著しい」「明らか」等の限定が付けられ、除外事由の適用場面をできる限り少なくしようとする規定の仕方をしていることにも鮮明に現れている。
② 行政情報公開の目的からの制約(例外の正当化事由)
行政情報の公開を原則とし、非公開を例外とするときは、例外を正当化するだけの合理性(正当化原理ないし正当化根拠)が必要である。
行政情報を公開することの直接的目的の一つは、公正な行政の公正な執行を確保すること、すなわち公正な行政の実現にあるから、例外的に非公開にすることが許されるのは、公正な行政の実現に優先する利益が存在する場合(本件条例六条一項、一号、二号)、若しくは公開することにより逆に公正な行政の実現が阻害される場合(同項三号ないし五号)に他ならず、これらが非公開の正当化根拠となる。したがって、前者の場合は、非公開が適法かどうかを判断するに当たっては、実質的に公正な行政の実現に優先する利益があるかどうかについての厳格な比較衝量論的な考察が不可欠であり、後者の場合は、そこで問題とされている行政行為が保護に値するだけの公正性を有していること(要保護性)が大前提として要求されているものである。
(2) 懇談の相手方について
① 本件条例六条一項五号によって保護されるべき県の行政執行上の利益は、実質的に保護に値する「公正」なものでなければならないが、行政執行上の利益が、実質的に保護に値する「公正」なものであると認められるためには、第一に、その行政活動の目的が公正であることが必要であり、第二に、その目的達成のために選択される手段も公正なものであることが必要であり、第三に、その行政活動に関する費用の支出が、適法かつ公正な手続に基づいてなされていることが必要である。
② 被告は、県の行財政を円滑に進めていくには、国、特に中央官庁との連絡調整を十分に行い、県の実状に対する理解を得、必要なときには協力できるような関係を作っておくことが必要であると主張する。
しかし、これらの主張は抽象的に過ぎ、非公開の事由にならない。例えば、「必要なときには協力を依頼できるような関係を作っておくことが実際問題として必要不可欠」との主張において、その「必要」「協力」「関係」がどのような内容であるのか、また何故「実際問題として必要不可欠」であるというのかが不明である。
そして、仮に、右主張は、有利な取り計らいを受けるための協力を依頼できる関係を作るために日頃から中央官庁の職員に対して酒食をもって接待にあたっておくことを指すとすると、懇談会開催の目的自体が違法である。
③ 次に、中央省庁と協力を依頼できる関係を形成するためには、人数が多いことが支障になることはなく、公式の会議や打合わせにおいても、きたんのない情報や意見交換を行い、協力を依頼できる関係を形成することは可能である。また、中央官庁の職員が多忙であるといっても、地方の県の実情について理解することは、中央官庁の職員の当然の職責であり、県職員が公式の会議や打合わせで県の実状を訴えることは可能である。
このように、被告が主張するような目的を達成するために中央官庁の職員等を招いて酒食を伴う懇談会を開催する必要性はないから、懇談会の開催は違法である。
そうして、本件における食料費の支出の実質は、接待であって、いわゆる官官接待であるから、公正な行政の執行とはいえない。
④ 県職員が中央官庁の職員と打合わせや懇談を行っても、このことは公務の遂行として予想されることであるから、懇談の相手方が公開されても、何ら支障が生じることはない。そもそも、県行政の円滑かつ公正な執行を図るために中央省庁職員と行政についてきたんのない意見交換や情報交換をするのに、何故、その場所や当事者を非公開とすることが前提とされねばならないのか、そのこと自体大いに疑問がある。
被告の主張によれば、本件懇談会においては、何らかの具体的な議題について打合わせが行われたのではなく、酒食を伴にして、必要なときに協力を依頼できるような良好な人間関係を築いているだけであるから、懇談会に出席した相手方を公開しても、懇談会の具体的内容について様々な憶測が流れるようなことはあり得ないし、相手方においても、県職員と公務として懇談するための会合に出席したことが公開されることを危惧することなどあり得ない。
仮に被告の主張するように、埼玉県が接待を受けた中央官庁名を公開したときに、中央官庁の職員がその懇談に要した費用のランク付けを知り、不快感、不信感を抱いたとしても、それは法的に保護されるべき利益ではない。
⑤ 被告は、著しく抽象的かつ被告の主観的な憶測ではないかと思われるような論理を展開したうえ、本件非公開情報が公開されると、「以後会合への参加が拒否されるおそれが生じる」「相手方に不快感、不信感を抱かせ、信頼関係が損なわれるおそれがある」と主張するのみであり、行政の公正かつ円滑な執行に支障が生じる危険が具体的に存在することが客観的に明白であることを裏付けるような主張はしていない。
被告は、懇談会は非公開を前提として開催していると主張するけれども、非公開を前提とすること自体立証されておらず、仮に非公開を前提としているとしても、県行政の円滑な執行に支障が生じるかも知れないという一般的・抽象的危惧を述べるだけで、具体性に欠けており、県行政の円滑な執行に「著しい」支障が生じるおそれのあることが「明らか」であるとの立証は何らなされていない。
⑥ したがって、懇談の相手方を公開しても、行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生ずることが明らかであるということはできないから、懇談の相手方についての行政情報は、本件条例六条一項五号に該当しない。
(3) 債権者名等及び振込先銀行名等について
① 債権者名等について
本件における債権者の取引内容は、もともと店のメニュー、請求書等を通して不特定多数の者に広く知られることになるものであり、また、取引内容が公開されることにより推知可能となる債権者の営業方針は、本来的に不特定多数の客に知られる性質のものであり、価格設定も要するに売値であって、営業上の秘密でもノウハウでもない。さらに、これらの情報を公開しても、当該債権者の全ての顧客やその利用状況が明らかとなるわけではなく、一顧客である埼玉県の、しかも特定の期間の利用状況が明らかとなるだけであるから、債権者の経理内容、経営状態等が第三者に知られることにはならない。
したがって、債権者名等を公開することによって債権者に著しい不利益を与えるということはできないから、債権者名等の行政情報は本件条例六条一項二号に該当しない。
② 振込先銀行名等について
振込先銀行名、預金種目、口座番号は、顧客に対して請求書を送付する場合には通常記載され、不特定多数の顧客に知られる事項であり、内部情報として厳重に管理されているものではない。さらに、当該事業者は、これらの情報を公金の支出を請求するのに使っているのであって、事業者としてこれが公になるのを拒みうる筋合いのものではない。
したがって、振込先銀行名等が公開された場合に当該債権者に対し著しい事業上の不利益を与えることが明らかであるとはいえないから、振込先銀行名等についての行政情報は、本件条例六条一項二号に該当しない。
(4) 取扱者名について
請求書はもともと不特定多数人である店の顧客に対して発行されることを予定しており、そこに記載された取扱者名は、店側が責任の所在を明確にし、また顧客の連絡の便宜等を考慮して、自ら記載した上で送付するものであって、もともと店側の定型的情報であるから、店の顧客である限り誰でも認識し得る情報として、本来個人の尊厳に立脚するプライバシーとは関わりのないものである。
したがって、取扱者名は、本件条例六条一項一号に定める公開しないことができる行政情報に該当しない。
(5) なお、県は、本件条例六条に定める行政情報に該当するかどうかの判定を円滑、適正に行うためには、公開しないことができる行政情報の判断の基準となるものが明示的に定められていることが必要であるとして、埼玉県行政情報公開実施要綱(昭和五八年埼玉県等告示第一号)の別表において、公開しないことができる行政情報の代表的なものを類型化した判定基準を定めるとともに、手引として作成した「埼玉県行政情報公開条例―解釈と運用―」に右判定基準を掲載しているところ、本件非公開情報は、右判定基準に該当しない。
第三 争点に対する判断
一 懇談の相手方の本件条例六条一項五号該当性について
1 本件非公開情報のうち、懇談の相手方については、前記のとおり所属省庁ないしは職種等が記載されているが、懇談会に参加した個人の氏名等は記載されていない。
そして、証拠(乙第四号証の一ないし一九)並びに弁論の全趣旨によれば、本件文書は、東京事務所、財政課、秘書課が外部の飲食店等を利用して行った懇談会に関する経費についての支出負担行為兼支出命令書であり、債権者の請求書又は請書、売上伝票、支出伺、口座振替支払内訳書が添附されており、これらの書類中には、懇談会が開催された日時、飲食店等の名称、飲食費用の金額及びその明細、右費用の請求並びに支払の年月日の記載欄のあるものがあり、また支出負担行為兼支出命令書及び支出伺に「摘要(支出目的等)」欄があり、右箇所に「懇談会経費」と記載されているが、それ以上に懇談会の目的及び内容を記載する箇所はなく、実際にも本件文書に懇談会の目的及び内容は記載されていないことが認められる。
2 そうすると、本件文書に記録されている情報は、懇談会の開催日、場所、費用等の外形的事実に関するものにすぎないから、被告主張のように懇談会が中央官庁職員及び学識経験者等との間できたんのない意見交換や情報交換をすることを目的として、県側からの要請により非公開を前提として開催しているものであるとしても、懇談会に参加した者の所属省庁名や職種等が明らかになっただけでは、そのため相手方の参加者において不快、不信の念を抱く等の事態が生じて懇談会におけるきたんのない意見交換や情報交換が不可能となり、あるいは懇談会について無用の憶測が生ずるものと解することはできない。
ましてや、被告主張のように懇談会が具体的な事業に関する打合わせを目的とせず、中央官庁の理解・協力等を得るための条件づくりとして行われる場合には、相手方の参加者において行政事務上内密にすべき具体的事項が議題となるものではないから、省庁名や職種等が明らかにされることによって、懇談会の運営開催につき著しい支障を生じると認めることはできない。
また、被告の主張によれば、東京事務所、財政課の開催する懇談会は、具体的な事業についての折衝、要望のために開催することもあるというのであるが、右主張によっては、当然にその対象が内密の事項であるということはできないから、懇談会が具体的な事業についての折衝、要望のために開催されることがあるというだけでは、右結論に影響はないというべきである。
もっとも、懇談会の目的によっては、参加者等の行政情報が公開されると、その情報自体から又は公開された情報に他の入手可能な情報を合わせ検討することによりその懇談会における協議内容等が明らかとなり、かつその出席者を秘匿しなければ公務の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生じると認められる場合も考えられないわけではない。しかし、本件文書にかかわる懇談会については、前記のとおり、その相手方としては参加者の所属省庁名又は職種等が記載されているにすぎず、かつその内容が内密にすべき事項を目的とするともいえないのであるから、それにもかかわらず本件文書における懇談会の相手方を公開することによって行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生ずるというためには、処分庁である被告において、懇談の相手方の所属省庁名又は職種等を公開することにより、公務の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生じる特段の事情が存在することを具体的に主張立証しなければならないものというべきである。しかしながら、被告は、右のような特段の事情が存在することを何ら主張立証しないところである。
3 次に、被告は、懇談会に要した費用も公開されるため、懇談会の相手方についての行政情報を公開することにより、県政における相手方の位置づけや評価について疑念が生じ、相手方に不信感や不快感を懐かせて信頼関係が損なわれ、ひいては行財政運営に支障を生ずることが明らかであると主張する。
しかし、食糧費が予算中の需用費の細節であり、また、需用費が地方公共団体の行政事務の執行に伴い必要とされる消費的な物品の取得等に要する経費等の外一般的にその効用が短期的に費消される経費であることは当裁判所に顕著な事実である。したがって、食糧費は、その予算の目的からみれば、行政事務の執行に際して費消される食品等に用いられるものであり、交際自体を目的として支出されるものではないと解される上、被告が主張するように懇談会は中央省庁等ときたんのない意見交換や情報交換を行うために開催するものとすれば、その目的は行政事務そのものに裨益するためであって、接遇ではないのであり、このことは相手方においても了知している筈であるし、そもそも右のような目的の会合をすべて外部の飲食店で開催する必然性があるともいえないから、食糧費の支出に関する限り、懇談会に要した費用の多寡が原因となって県と相手方との信頼関係が損なわれ、そのため今後右のような目的の懇談会の開催に著しい支障が生じるとは、俄に断定することができない。
したがって、被告の右主張は理由がない。
4 以上のとおり、懇談の相手方についての行政情報を公開することにより、行政の公正かつ円滑な執行に著しく支障を生ずることが明らかであると認めることはできない。
二 債権者名等の本件条例六条一項二号該当性について
1 債権者名等の行政情報中、後記3の債権者・店の印影等以外の、前記第二の二5(二)①のうち債権者・店の住所、名称、郵便番号、電話番号、ファックス番号、②のうち振込先の郵便番号、③の連絡先、④の債権者コード番号、⑥の姉妹店の名称及び電話番号、⑦のうち契約者の名称、住所、⑧の納入場所は、不特定多数の者に開示されており、あるいは債権者が内部情報として秘匿しているものではないということができる。したがって、これら情報は、それ自体としては、明らかに当該事業に専属する情報で、公開することによって、当該法人等に著しい不利益を与えることが明らかであるということはできない。
2 もっとも、証拠(乙第四号証の一ないし一九)によれば、本件文書に添付されている債権者の請求書、請書、売上伝票中には、当該取引における料理名、数量、単価、金額等が記載されている場合があり、右部分は公開されていることが認められるから、右1のような債権者・店の住所、名称等の行政情報が公開されると、これらの行政情報と既に公開されている請求書等の記載内容又は他の入手可能な情報とを合わせることによって、当該債権者と県との間の当該取引の詳細な内容が明らかとなる場合があるということができる。
しかしながら、右のような取引内容は、当該債権者の一顧客にすぎない県の、かつ一定期間に限られた食糧費の支出に関するものに限定されているから、これらの情報によって当該債権者の経理内容が明らかになるということはできない。そこで、このような場合には、当該債権者の提供価格等が一般に公開されておらず右取引には営業上秘匿すべき内容がある等の特段の事情がない限り、このような県との間の限定された取引内容が公開され、その詳細が明らかになることによって、当該債権者に著しい不利益を与えるものと認めることはできない。ところが、被告は、右のような債権者・店の住所、名称等の行政情報が公開されることによって当該債権者が著しい不利益を受けるような特段の事情があることを具体的に主張立証していないものである。
3 次に、前記第二の二5(二)①のうち、債権者・店の印影、②のうち振込先、⑤の債権者・店の代表者の印影、⑦のうち契約者の印影、代表者の印影は、それが事業を営む個人についての情報である場合には、当該事業に専属すると認められる情報であって、一般に公開されることを欲しない情報であるということができ、法人についての情報である場合は、取引関係に関する情報で内部情報として管理をしているものであって、その情報の性質自体から、公開することにより法人等に著しい不利益を与えることが明らかなものであると推認することができる。
4 よって、債権者名等の行政情報のうち、債権者・店の印影、振込先、債権者・店の代表者の印影、契約者の印影、代表者の印影についての情報は、本件条例六条一項二号の公開しないことができる行政情報に該当するが、その余の債権者名等の行政情報は、同号の行政情報に当たらないものである。
三 振込先銀行名等の本件条例六条一項二号該当性について
前記のように振込先銀行名等には、振込先銀行名、預金種目及び口座番号が記載されているところ、証拠(乙第四号証の一ないし一九)によれば、債権者が埼玉県に対して提出した請求書、売上票、請書には、振込先銀行名等が記載されていることが認められる。そうすると、右請求書等が顧客に対して交付されるものである以上、右情報は一定範囲の者の間には知られうる性質の情報であると認められる。
しかし、これらの情報は、法人等が自らの営業活動の中で使用するものであり、一定範囲の者に知られうる性質のものであるとしても、その開示範囲は当該法人等が自ら選択できるものであって、自ら開示した者以外に対しては公開せずに内部情報として管理するのが通常の情報であるということができる。
そして、これらの情報は、その開設する預金口座等を特定する情報であり、当該債権者の取引関係に関する情報であるから、その情報の性質自体から、公開することにより法人等に著しい不利益を与えることが明らかであるということができる。
したがって、振込先銀行名等の行政情報は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。
四 取扱者名の本件条例六条一項一号該当性について
本件条例六条一項一号は、特定の個人が識別され、又は識別され得るものは公開しないことができると規定し、その但書において、法令等の規定により何人でも閲覧することができる情報等の除外事由を限定的に列挙している。そこで、右規定の体裁・文言・除外事由の内容に鑑みると、その趣旨は、プライバシーの保護を最大限に図るために、特定の個人を識別することが可能な情報につき、その情報の内容如何を問わず、原則として非公開とすることができると定めたものと解するのが相当である。
そして、本件における取扱者名の行政情報は、前記のように債権者の従業員の個人名が記載されているから、特定の個人が識別され、又は識別され得るものとして、本件条例六条一項一号本文に該当するものであり、なお、これが同号但書の事由に該当すると認めるに足りる証拠はない。
五 本件文書に記載された行政情報の要保護性について
1 原告は、食糧費を懇談会等に支出すること自体が違法であり、あるいは本件文書は書き換えられていること等を理由として、懇談会への支出に関する本件非公開情報は保護すべき行政情報に該当しないと主張する。
2 しかし、本件条例一条によれば、同条例が住民に行政情報の公開請求権を認めた趣旨は、行政情報の公開を認めるかどうかを決定する場面において直接過去の行政の適否や当否あるいは行政情報の真否を審査するためでなく、行政の公正な執行を図るための手段・方法として住民が既存の行政情報を入手することを可能にしたことにあると解される。実際にも、或る行政情報の公開の可否が審判の対象となっている訴訟において、右行政情報を公開すべきかどうかを決定するためにこれに関する行政活動の適否や行政情報の真否を判断すべきものとすれば、通常当該行政情報の内容を審理することが必要となるのであって、このような事態が行政情報の公開に除外事由を定めた趣旨に反することは明らかである。そして、本件条例二条によれば、本件条例にいう行政情報とは、同条所定の文書で県の機関が保管しているものに記載された情報であり、本件条例六条は、公開しないことができる行政情報を定めているところ、同条一項一号、二号、五号によれば、右各号に定める非公開情報となり得るかどうかは、当該行政情報そのものの性質、内容が基準とされていることが明白である。したがって、右各号に定める行政情報について、これが非公開情報に当たるかどうかを決定するに当たり、当該行政情報の真否やこれに関する行政活動の適否は、これが右行政情報自体の性質、内容に反映するような特別の事情がない限り、審査の基準とならないものといわなければならない。そうして、行政情報の真否や行政活動の適否が行政情報の公開の可否を決定する要素となる特別の場合においても、行政活動の適否や行政情報の真否の審理が行政情報の公開に除外事由を定めた趣旨に反しないような方法で行われることが必要である。
もっとも、本件における懇談の相手方については、前記のように当該行政情報自体に即して非公開事由に該当すると認めることはできないから、右行政情報に関する行政活動の適否や行政情報の真否は、これを問題とする余地がなく、他方、非公開事由に該当すると認めた前記の債権者・店の印影等については、これらが非公開事由に該当するかどうかを判断するに当たり、行政活動の適否や行政情報の真否が右行政情報の性質や内容に反映するような特別の事情があると認めるに足りる証拠はない。
六 埼玉県情報公開実施要綱及び「埼玉県情報公開条例―解釈と運用―」について
埼玉県行政情報公開実施要綱九条は、その別表において本件条例六条一項により公開しないことができる行政情報の判定基準を定めているところ、その趣旨は、実施機関が本件条例六条一項を具体的に適用するに当たっての解釈の基準を定めた内部準則にあると解される。したがって、右実施要綱九条は、本件条例の解釈において参考とされるものではあるが、本件条例における公開しないことができる行政情報の判断基準を規律する効果を有するものとはいえない。
また、証拠(甲第三号証)によれば、「埼玉県情報公開条例―解釈と運用―」と題する冊子は、その体裁及び記載内容に照らすと、本件条例及び右要綱等の内容を敷衍し、その理解の便を図るために作成・配布されたものと認められるから、右「埼玉県情報公開条例―解釈と運用―」が、本件条例の判断基準を規律する効果を有するものと認めることはできない。
したがって、当該行政情報が本件条例に定める公開しないことができる行政情報に該当するか否かは、右要綱及び「埼玉県情報公開条例―解釈と運用―」を参考としつつ、個々具体的な行政情報について、個別的に判断すべきものであり、右要綱九条の別表及び「埼玉県情報公開条例―解釈と運用―」に本件非公開情報に類する情報が例示されていないことを理由として、本件非公開情報が公開しないことができる行政情報に該当しないとする原告の主張は、それ自体失当である。
七 よって、原告の請求は、本件一部非公開決定処分のうち、1懇談の相手方、2債権者・店の住所、名称、郵便番号、電話番号及びファックス番号、3振込先の郵便番号、4連絡先、5債権者コード番号、6姉妹店の名称及び電話番号、7契約者の名称及び住所、8納入場所を非公開とした部分の取消しを求める限度で正当であるから、これを認容し、原告のその余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大喜多啓光 裁判官小島浩 裁判官水上周)
別紙<省略>